先日、久しぶりにブラッド・ピットが主演の映画『マネーボール』を観ました。
これはアメリカのメジャーリーグで実際にあったお話をもとに作られた作品で、弱小貧乏球団のオークランド・アスレティックスのGM(ゼネラルマネージャ)、ビリー・ビーンが『セイバーメトリクス』という新たなデータの活用法を使って、100年以上破られなかったアメリカンリーグの記録を破って強豪チームに変貌させた、という実際にあったサクセスストーリー。
セイバーメトリクスという言葉自体はあまり日本では聞きなれない言葉ですが、以前からもデータマイニングやナレッジマネジメントなど、既存の情報の活用方法を工夫することで新たな価値や評価基準を見つけるための思考や手法は存在していました。
ちょっと例えが古いですが、元ヤクルトスワローズの野村克也監督が提唱した『ID野球』や、クラウドという技術や概念が発達した今、ビッグデータと言われる大量のデータや情報を処理、活用方法が再び注目を浴びています。
データの活用という面においては、野球だけでなくゴルフでもスコアやパット数、各クラブの飛距離やピンまでの残り距離など、多くの『数字やデータ』が使われています。
しかしながら、ゴルフにおいてこのような既存の評価基準以外の指標は存在しているのでしょうか?
調べたところ、日本とアメリカのゴルフ界では数字とデータの扱いに大きな差異、いや、絶望的な格差があることがわかりました。
今回は、日本とアメリカのゴルフ界における『数字とデータ』の意義と活用方法の違いについてお話ししたいと思います。
Contents
セイバーメトリクスとは?
まずは、冒頭に出てきたセイバーメトリクスと言う言葉についてご説明します。
セイバーメトリクスとは、野球ライターで野球史研究家・野球統計の専門家でもあるビル・ジェームズGeorge William “Bill” James, 1949年- )によって1970年代に提唱されたもので、アメリカ野球学会の略称SABR(Society for American Baseball Research)と測定基準(metrics)を組み合わせた造語である。
参照:ウィキペディア 【セイバーメトリクス】
つまりセイバーメトリクスとは、野球をデータや統計学などを用いて客観的に分析することでこれまでとは異なる基準で選手の新たな能力を評価する思考や手法として誕生し、現在は多くのメジャーリーグチームで採用されています。
セイバーメトリクスがなぜ注目されたのか?
1998年にMLBオークランド・アスレティックスは球団オーナーが変わり大きく予算が縮小されました。
その結果、チームを維持するために有力な選手を他チームに売却し続けて、アスレティックスは貧乏な弱小球団に成り下がってしまいます。
どれくらい貧乏だったかというと、当時のアスレティックスが選手に支払っていた総年俸額は全球団30チーム中26位、27位くらいと、とにかくお金がない!
他のチームからいい選手を補強して強いチームにしたいけど、いい選手はみんな高年俸でアスレティックスには買えません。
オーナーと現場の間に入ってチーム強化の方針、実行を行う役割を担っていたのは、当時GM(ゼネラルマネージャー)という立場だったビリー・ビーンという人物。
ここでビリーは、セイバーメトリクスを採用することで、従来の評価基準では評価や年俸が低くても、新たな評価基準では高評価な選手を安価で獲得することで、弱小チームのアスレティックスをメジャーリーグの記録を塗り替えるほどの強豪チームに成長させることに成功しました。
このサクセスストーリーは、ブラッド・ピットが主演の映画『マネー・ボール』でも描かれました。
セイバーメトリクスは既存の価値観や評価基準を否定する
MLBにおいてそれまでの野球選手の評価には防御率、勝利数、打率、打点などいくつかのお決まりの『基準や指標』が採用されていました。
しかし、セイバーメトリクスではこういった誰もが正しいと疑わない評価基準を真っ向から否定しています。
【選手ではなくを勝利を買え!】
セイバーメトリクスには選手個人の評価をするには勝利への貢献度がなければいけないという根本的な思想や哲学があるからです。
[speech_bubble type=”fb” subtype=”R1″ icon=”2.jpg” name=”セイバーくん”]打点って、運じゃね? [/speech_bubble] [speech_bubble type=”fb” subtype=”R1″ icon=”2.jpg” name=”セイバーくん”]打率って考え方、甘くね? [/speech_bubble] [speech_bubble type=”fb” subtype=”R1″ icon=”2.jpg” name=”セイバーくん”]てか、送りバントって得点機会率が下がるから損じゃね??[/speech_bubble]
と言ったかどうかはわかりませんが、統計学的根拠と分析で勝利への貢献度の根拠が乏しいものは150年のメジャーリーグの価値観と言えど真っ向から否定し、出塁率やWHIPなど新たな評価基準を提唱しました。
日本のゴルフ界の『常識』的な評価基準
ではここで翻ってゴルフ界における数字やデータの扱いを見てみましょう。
現在、プロアマを問わずゴルフ界において常識となっているいくつかの評価基準がいくつかあります。
スコアカードに記載するスコアやパット数だけでなく、以下のような評価基準が採用されています。
- パーオン率
- パーセーブ率
- フェアウェイキープ率
- ドライビングディスタンス
- サンドセーブ率
- など、合計44項目
これらの基準はなかなかアマチュアの私たちが使用することはありませんが、日本のプロゴルファーのスキルを測るひとつの『指標』として一般的に採用されています。

参照:日本ゴルフツアー機構 公式記録(片山晋呉選手)
日本プロゴルフツアー機構では、これらの指標をもとに他の選手との能力比較を行っています。

日本ゴルフツアー機構の公式記録 パフォーマンスチャート
ちなみに、日本プロゴルフ協会など他団体のサイトでも上記以外の選手データは掲載されていませんでした。
探せばあるのかな?
アメリカのゴルフ界の『常識』的な評価基準
では、同じゴルフと言う競技であってもアメリカではツアープロたちの能力をどのような指標で測っているのでしょうか。
以下はアメリカPGAツアー公式サイト(US版)内の『Statictics(統計)』の中で採用されている指標の抜粋です。
採用されている指標の数はもちろんですが、特筆すべきはこれら指標の『内容と質』です。
- RECAP(総合)
- OFF THE TEE(ティー以外)
- APPROACH THE GREEN(2打目以降)
- AROUND THE GREEN(グリーン周り)
- PUTTING(パッティング)
- SCORING(スコア)
- STREAKS(関連)
の大きな7項目に分類されているだけではありません。
2打目以降に関しては、フェアウェイキープ率だけでなく
- フェアウェイを外した時、フェアウェイからどれくらい離れていたか
- フェアウェイを右ラフに外した割合、左ラフに外した割合
アプローチはグリーンオン率だけでなく、
- 残りの距離ごとのアプローチショット後のカップまでの距離
- これがフェアウェイの場合とラフの場合でカップまでの距離がどれだけ異なるか
パットは平均パット数だけでなく、
- 大会4日間を通したラウンド別の平均パット数
- 残り3フィート(約90cm)から1フィート刻みでのパット成功率
そして、これらの指標の数値のツアープロ全体のランキングも表示していますので、これらの指標が表すスキルが全選手中何位なのかもわかります。
というように、本場PGAがもつ選手の統計値が恐ろしいくらい細かい!!
ちょっと引くくらいw。
日米ゴルフ界の絶望的な『情報格差』
以上のことから、アメリカのゴルフ界にはすでにセイバーメトリクスの概念は取り入れられ、今ではゴルフメトリクスが根付いていると言えます。
これによりアメリカのツアープロたちは、これまでの選手やキャディー、トレーナーの主観による評価で練習方法や内容を決めることなく、自身の能力や技術を数字やデータで客観的に把握することができるようになったため、トレーニングや練習を効果的かつ効率的に行えているはずです。
ソフト面、ハード面において日本とは比較にならないくらい圧倒的優位なアメリカゴルフ界は『情報の質と量』という面においてもすでに圧倒的優位にあるという訳です。
日本のゴルフファンが愕然とする事実
PGAツアー公式サイトは、日本のファンのために日本語版も用意してくれています。
ありがたいですね。
US版のような細かな指標も英語表記のままでは、なかなか理解しにくいものがありますからね。
それでは、PGAツアー公式サイトの日本語版を見てみましょう。
上記同様、J・スピース選手のページです。
これだけ(笑)。
うそでしょ?!
US版では100以上の指標が掲載されていたにもかかわらず、同じJ・スピースのページでもほとんどすべての指標が見事に省略されています!
これは、PGAの方がゴルフ界における新たな指標や評価基準を持たない我々日本人のために見やすくしてただいているのか(笑)。
それとも、わたしたち日本人には情報を隠そうとしているのかわかりません。
いずれにせよ、日米のゴルフファンの間に情報格差が存在していることは間違いありません。
まとめ
いや、もしかしたら日本ゴルフツアー機構の公式サイト内には掲載されていないだけで、日本国内の他の協会や選手個人がPGAに負けないくらいのショットデータや分析結果などの指標を持っているのではないでしょうか?
いや、無理かw。
実際の試合での選手のショット情報を測定している風景ですが、日本国内の試合でこんな風景見たことがない↓。
測定と言うより、測量みたいで笑えるレベルw。
上の動画を見ても今の情報格差を生んだのは、情報を誰のためにどのように生かすか、そのためにどんな情報をどのように収集するか、といった日米のゴルフ協会の『情報リテラシー』の差と言わざるを得ません。
情報リテラシー(じょうほうリテラシー、information literacy)とは、情報 (information)と識字 (literacy) を合わせた言葉で、情報を自己の目的に適合するように使用できる能力のことである。「情報活用能力」や「情報活用力」、「情報を使いこなす力」とも表現する。したがって情報リテラシーとは、情報を主体的に選択、収集、活用、編集、発信する能力と同時に、情報機器を使って論理的に考える能力が含まれている。
参照:Wikipedia 【情報リテラシー】より
US版のPGAツアーのサイトは選手の得意、不得意が一目でわかるし、今後はこのデータをふまえて試合を観ることができるようになるから、ひいき目なしに見てもとってもおもしろい!
日本のゴルフ界の方たちもこれ以上のファン離れを食い止めるべく、ファンにいろんなゴルフの楽しみ方を提案してほしいものです。
まあ、やってくれないだろうからこのサイトの中でゴルフメトリクスについて特集を組んで詳細に解説していきたいと思います(笑)!
それでは今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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